ホタル生息数調査の問題〜幼虫の体長

今回のホタルの生息数の調査には色々な問題があります。その一つが、ホタル幼虫の体長の推定方法の誤りです。本稿ではこれについて説明します。

 

まず、調査の詳細は以下の文書で報告されています。

http://www.city.itabashi.tokyo.jp/c_oshirase/059/attached/attach_59497_1.pdf

板橋区ホタル生態環境館におけるホタル等生息調査報告書

平成 26 年 1 月 (株)自然教育研究センター

 

調査を見ていたボランティアやスタッフの話によると、生体数調査に入った区の職員が、見つけるべきホタルの体長を1センチ以上と指定していたそうです。スタッフが、幼虫はもっと小さいのでスポイトを使って探すべきだと進言しても聞き入れられなかったそうです。

 

体長を1センチ以上だと推定した根拠が、この報告書のP6に記載されているので、引用します。(赤字は引用者による)

調査時期については、ゲンジボタルの生態を考えた場合、3 月中旬~4 月に調査を行うことは、幼虫が上陸する時期であるため生体への影響が最も大きくなると考えられ不適切であると判断した。

一方、ふ化幼虫を放流した直後(6 月下旬~7 月)の場合、調査対象の生体が小さすぎるため、これも調査には適していないと判断した。今回の調査日である 1 月下旬ごろは、ホタルの幼虫は一般的に15~25 mm 程度に成長しており(図 11)、今回使用したサーバーネットの目合い(0.5 mm)をすり抜けることはなく、目視で発見できると考えられる(※夏期における卵から孵化時の状態で 1.5 mm 程度とされている)。 

 

図 11:ゲンジボタルの成長
図 11:ゲンジボタルの成長

重要なのは「1 月下旬ごろは、ホタルの幼虫は一般的に15~25 mm 程度に成長」の部分です。これは、資料で引用された大場信義著「ゲンジボタル」にあるゲンジボタルの成長を示す図(図11)から読み取ったものでしょう。報告書では孵化幼虫を放流した時期を「6月下旬~7月」としているので、調査が行われた1月末は、それから約200日が経過しています。図11で200日経過時点の体長を読み取ると27ミリメートル位に見えます。もうすっかり育ち切った体長です。

 

ところが、この図11を良く見ると、上の方に「平均飼育水温」も記されており、ゲンジボタルがぐんぐん成長する時期の水温は14℃位から28℃位と読み取れます。ここの飼育水温の前提はホタル生態環境館と全く異なります。阿部博士の発言からすると、せせらぎ内の水温は調査時期まで10.5℃に保たれていたようです。図11が想定している水温よりもずっと低いのです。ホタルは水温が低いと成長が抑えられます。したがって、おそらく図11に書いてある体長より、実際の幼虫の体長はずっと小さかったでしょう。1センチ以上であるという間違った前提を置いてしまったために、本当は小さかった幼虫を全部見逃してしまったのではないでしょうか。

 

では、どうすべきだったのでしょうか?

簡単です。阿部博士が報告していたと思われる過去の業務報告資料から、ホタル生態環境館での幼虫の生育スピードを調べれば良かったのです。あるいは、阿部博士に事前に想定される体長を確認すれば良かったのです。全く異なる飼育条件を前提とした文献だけを見ていたら間違うのは当たり前です。過去の業務報告との照合や阿部博士への相談をしなかったのは、重大な職務怠慢ではないでしょうか。

 

更に、もう一つ重大な問題があります。

ヘイケボタル幼虫の体長推定をしていないのです。ヘイケボタルとゲンジボタルでは、体長も違えば、成長の速度も違います。ゲンジボタルとは違った推定をすべきではないでしょうか。しかし、何の根拠も示さず「1センチ以上あるはず」という前提で調査を実施しています。これもまた、過去の業務報告との照合や阿部博士への相談をしなかったのは、重大な職務怠慢ではないでしょうか。

 

区議会での審議は、この調査を正しかったものとして進められているようですが、そもそもこの調査は正しかったのかを問う所から検証していただきたいと思います。